5月の本① 長い読書

月ごと日記

今年初めて読み、今まで読んだことのない味わいを感じた「明日から出版社」の著者、島田潤一郎さんの新しい著書「長い読書」が発売となり、気付いたら本屋さんにいて気付いたら本書を手に持ってレジに並んでいました。

独特な章の名付け 高まる期待

買った本を初めて開く時、目次から見るようにしている。
多分むかーしに読んだ読書術的な本に目次から目を通せみたいなことが書いてあって、当時は何でも信じちゃう少女だったくまふくは素直に従いそのまま今に至っている。
あの時はいかに早く色んな本を読んで浸って自分のものにする(した気になっていただけだと思う)かが大事だった。

あと、早く読みたい気持ちを抑えながら目次を早足でめくっていくのが楽しい。
私は本書のようなエッセイが大好きで、目次にも色んな著者さん達の個性が爛々と輝いている。
読みたい読みたい!と心はめっちゃくちゃに急いているからしっかり目を通すことはできないけれど、本書では特に個性が光っていてページをめくろうとする手が少し止まった。

「本を読むまで」、「本と仕事」、「本と家族」の3つの大きな章に分かれている。
島田さんは夏葉社という出版社を経営しているため、本が生活の中心となるような章立てには納得感があるものの、面白いのがまだ本を読んでいない段階に目を向けた章があること。
どんなに本が大好きで読書家な人にも本を読む以外の時間があり、そのお話の島田さんバージョンが綴られているっぽい。俄然興味あります。

そんな感じで更に更に期待を高めてもらえるから、目次にはこれからも個性が光っていてほしいし、私は例え「はじめに」が目次の前にあっても一旦飛ばして目次から読む。

長さも様々、文字の大きさも様々

どのお話もすっごく面白くて興味深くてばばばーっとまず読み通したけれど、読後すぐ思ったことが「この本すっごく自由じゃん」だった。

書き下ろしが多いことと、色んなところに掲載されていたものをまとめているためか、それぞれのお話の長さがだいぶ違う。
サクッと読めちゃうものもあれば、じっくり考えながらページをめくる回数も割と多いものもある。

私は融通の利かない性格で、初回は絶対に初めから最後まで順番通りに読むという謎に心に刻まれた信条があり、自由さに時に翻弄され時にワクワクしながら読み進めたけれど、フリースタイルを楽しめる人などはその日の気分で読みたい長さを変えられるところがとっても楽しいなと思った。
本を読む時間は基本的に喜びなものの、少し字に触れたいだけでそんなに読み続けるパワーが無いなんて日もよくある。

そして、本の引用ではあるものの、急にめっちゃでかい字と出会う瞬間がある。初見ではすごくびっくりした。
なんかこういう自由な本ってめっちゃいいなぁ、と素直に思う。

多彩な引き出し

私は島田さんより若輩者ではあるけれど、たとえ同い年になったとしてもこんなにエピソードや物事の引き出しを多く持った人になれるかと問われると食い気味で無理ですーと叫べる気がする。

沖縄に住んだりアフリカを縦断したことがあること、小説家を目指していたことなど、これくらいの大きなくくりでのことなら他の著作でも知っているけれど、その最中での色んな考えやエピソードに重複を感じない。
きっと日常の中でもうんと考えたり、自分の感じたことをちゃんと覚えているのだと思う。さて私は…とつい比べてしまう。

本書内で引用される本もとても多様で、こんな人がいてそんな著作があったのかと新たに自分の記憶に刻むことも多い。

引き出される記憶とその見つめ方が好き

例えば、「本を読むコツ」という一編。
初読時にノウハウ本にありそうなやつきた…と一瞬驚くも、もちろん島田さんの記憶と眼差しに基づいた優しい後押しであった。
別に、だからあなたもこういう風にすれば読めるよ、なんてことも書かれていない。だけど自然と読者は勇気づけられ本を開こうという気持ちになれる。

きっと島田さんの書く文章を好きな人たちはこんなところが好きなんだろうなぁ、とつい主語を広げてしまいつつ私もこういうところが大好きだ。

◯◯だからこうしてほしい、みたいな押し付けというか世話焼き?おせっかい?が一切ない。
だけれど、その引き出しの多彩さと語りの面白さと穏やかさに絆されてしまって、島田さんがそう言うなら私もやってみようかなぁと思ったり、そういう考え方があるのか!私もそうやって物事を見つめてみようかなとか同じ道をつい辿って行きたくなってしまう。もはや静かな魔性。

また、穏やかで静かな文章であっても、島田さんの粘り強さと情熱が確かに伝わってくるところも本当にすごい。
「本づくりを商売にするということ」という一編で、どんな本を作りたいか、本を扱う代表的な場である本屋とはどういう存在なのか、本を取り巻くこの世界という観点から色んなことをじっくりと考えていることが窺える。
そうじゃなきゃこんなに色んなところへ広がる思考をまとまった文章にすることなんてできないでしょ、と心の中ですげえすげえと繰り返した。
しかもこのお話で引用される作品がハンナ・アーレントの『エルサレムのアイヒマン』だから衝撃。こんな繋がり方をした経験は初めてだった。

本書の題名にもなっている「長い読書」は1番考えさせられるというか感じることが多くあり、義父との関係を真摯に見つめ続け見送ること、並行して続く島田さんの日々も島田さん自身によって見つめられていることが文字と共にぐっと心の中の深いところに踏み込んでくる。
こんな素敵な文章になる程の眼差しを向けられることの幸福を感じ、私も大切な人にこのような眼差しを向けられる人になってみたいと強く思った。

本を読んでいる間は静かで穏やかで読みやすく、流れるようにページをめくっていけるけれど、そのまま通り過ぎていってしまうことはなく確かに心に残るものがある。
というのが、島田潤一郎さんの本ではないかと所感を持っている。

島田さんの本を読むようになってから、どんどん本を読んでは忘れ去りまた新たな本を貪るような今までの読み方は少し勿体なかったなと振り返ったことがある。
そこからは、本をよりじっくり読んで自分は何を考えるかどうしてそう思うか時間を意識的に設けるようになったし、買う本も前より吟味するようになった。
本の作り手のことを考えられるようになったのが大きいと思う。

今の方が本と楽しく興味深く付き合っている気がする。
島田さんの次の著作や、過去の著作が早く読みたくていつも気が急ぐこともまた事実。

くまふくでした🐻

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